ひき岩群

 和歌山県田辺市の近郊に「ひき岩群」なるものがある。手元に文献がないために不正確だが、新第三紀中新世(約1500万年前:日本海が出来て日本が大陸から分かれた頃)の白浜層群の一部だと思う。砂岩が卓越するが、一部砂岩・泥岩互層や礫岩となっている。かつては緑に覆われた山だったのだが、森林伐採のため禿げ山になったんだそうな。人類の活動が活発な関西地方では、禿げ山をしばしば目にする。神戸から神明国道を走っていくと高砂あたりの山は禿げていてビックリする。が、六甲山だって緑に覆われたのは第二次大戦後であって、大正時代には禿げ山だった。
 周囲の山は緑が戻ったがこの山はまだ戻らないそうな。岩の形が「ヒキガエル」に似ていることから「ひき岩」と呼ばれているらしい。砂岩主体の単斜構造で、浸食に対する地層の強度の差(砂岩は硬く砂泥互層は弱い)から、地形にコントラストを生じた(ケスタ地形と言う)。岩種による強度差だけでなく、地層中のジョイント(亀裂:小断層)もあって、このような地形を作った。

 残念ながら、こちらにはクリノメーター(地層の走向・傾斜を測る道具)も持ってこなかったので、地質構造の理解も十分ではない(たって単斜なのだから理解も何もないのだが)のですが。

 ひき岩  ヒキガエルのように見えるからなんだそうな。その他の岩も、ヒキガエルに見えるから、このあたり一帯を「ひき岩群」と呼ぶらしい。

平らに見える岩壁が地層面。岩山をなすのは粗粒砂岩。物理的に強いらしい。

 砂岩を切るジョイント(小断層)。見た範囲では全て正断層だった。ここでの変位量は十数cm。だが、固結したガウジを伴うものもある(そこでは変位量不明)ことから、何度かは繰り返し活動したらしい。

粗粒砂岩がなす稜線。右側は地層面、左側はジョイント面。

 分かりますか?スカイラインの手前の岩壁に植物が直線的に生えているのが。ジョイントに沿って土壌がわずかに形成されているので、そこに植物が生えている。

主体をなす粗粒砂岩。斜交ラミナが見える。浅海の堆積物

 砂岩・泥岩互層。中深海の堆積物。引っ込んだ部分が泥岩・突出しているのが砂岩。砂岩・泥岩のペアがおそらくは1回の南海地震型巨大地震の間隔(百〜数百年)。砂岩の方が厚いが、こちらは数時間程度で堆積した。泥岩の方はずっと永い時間をかけて堆積。

 礫岩。この地が氷河時代に陸化した後、温暖化に伴って海水準が上昇し水没した頃の堆積物。構成物は砂岩礫が多いが、チャート(遠洋の大洋底の堆積物)の円歴も混じっている。チャートははるか遠い太平洋(またはフィリピン海)の底の堆積物で、プレート沈み込みに伴って南海トラフに掻き寄せられたもの。

不整合面。砂岩と礫岩が接している。


 ここでは地層の露出が良い上に単斜構造のために地質は非常に理解しやすい。海進・海退のサイクル(氷河時代の訪れ:海退と、温暖期における海面上昇:海進)が、地層からよく分かる。

 同業者さんが最近見に来たらしい。露頭の表面が剥がれて、新鮮な面になっていた。明らかに堆積構造を観察しようとした地質屋のしわざ。

 

空から見るとこんな感じ。西北西−東南東ないし北西−南東走向に列をなしているのが、粗粒砂岩がなす凸部。


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